「カンヌライオンズ2024」からみた、日本のPRとマーケティング

毎年6月にフランスのカンヌで、広告・コミュニケーション業界における世界最大級のイベント「カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバル(Cannes Lions International Festival of Creativity)」が開催されています。約100カ国から15,000人以上と、今年も多くのクリエイターやマーケターが集まり、最新のトレンドや革新的なアイデアが披露されました。

もともとこのイベントは、「カンヌ国際映画祭」の間に流れる広告フィルムを表彰するアワードとして1954年に設立されたことから、今でも数多くの映像作品も出品されています。しかしながら回を重ねるごとに新しい部門が増え、フィルム部門、プレス部門、アウトドア部門、サイバー部門、PR部門など、今では実に30部門ものアワードが設けられています。今年は全世界から26,753作品がエントリーされました。

私は毎年PR部門を中心に見ています。いつか私もこの舞台に・・・というような気持ちにはまだほど遠いですが、PR業界の情勢や社会とPRの関わりなど、学ぶべきことが多いと感じています。そこで、今回のブログでは、このアワード受賞作の中でも日本企業の作品をピックアップしつつ、今後のPRやマーケティングについて考えてみたいと思います。

カンヌライオンズ

この画像はAIで作成しました

マクドナルドの「スマイルあげない(英語表記:「No Smile」)」キャンペーン

「スマイル0円」で有名なマクドナルドのクルー(店舗スタッフ)ですが、「働き方の多様性」を背景に採用活動の側面から企画されたのが、「スマイルあげない」キャンペーンです。同社には全国に約20万人のクルーがいますが、それぞれのクルーの希望や生活スタイルに合わせて勤務形態やポジションを選択できるなど「多様な人が働ける環境」を整備してきました。

スマイルあげない

今回のキャンペーンでは、あのちゃん(アーティスト名=anoさん)が歌うオリジナルソング「スマイルあげない」のプロモーション動画を公開、「僕はニコっとスマイルあげないぜ。僕は僕のままのキャラクターで」といった歌詞をユニークなダンスとともに披露しています。そしてこの音源を使った動画投稿キャンペーンをTikTok上で展開しました。「少し練習したらすぐにマネできる」「クセになる動き」という、TikTokでバズるポイントを押さえています

ano新曲「スマイルあげない」特設サイト

このキャンペーンの狙いは、Z世代に向けてマクドナルドで働くことの魅力を訴求するとともに、一人ひとりに合わせた「働き方の多様性」を、「上手に笑えない」あのちゃんに重ねて訴求することで、共感を得ることといえるでしょう。

「スマイルあげない」キャンペーンが、「カンヌライオンズ2024」にて金賞および銅賞を受賞

すみだ水族館・京都水族館「ペンギン相関図」

水族館でも人気の高いペンギン。この企画は、すみだ水族館と京都水族館、それぞれにいるたくさんのペンギン1羽1羽を丹念に調べ上げ、群れの中での立ち位置や関係を壮大な相関図に表したものです。どのペンギンとどのペンギンが夫婦で、どのスタッフとどのペンギンが仲良しで、すぐテンションが上がるのはどのペンギンで、というのが丸わかりになってしまうものです。

ペンギン相関図

すみだペンギン相関図
京都ペンギン相関図

この「ペンギン相関図」は、2018年に初めて作られたもので、実は私も京都水族館で2018年頃に見たことがあります。その当時はペアのペンギン同士を観察してみたり、面白いキャラクターの子を見つけたりと、盛り上がった思い出があります。しかし、それだけではなくその後毎年アップデートされており、交通広告でも展開するなど話題の拡大を狙った取り組みも秀逸です。そして2024年版として新しく行われたのがYouTube広告の「どうせスキップできない広告ならペンギンの話」です。

YouTube広告には、スキップできる広告と、スキップできない広告があり、後者はしばしば邪魔者扱いをされてしまいます。今回はあえてこのスキップできない広告を使い、冒頭から「どうせスキップできない広告ならペンギンの話」のナレーションで始まり、「ペンギンのよもぎに10年ぶりに彼氏ができた」などの15秒CMを流すというものです。YouTubeで広告に出くわしたときに思う「スキップしたい」という気持ちに寄り添った斬新な企画でした。

北國新聞「第107回高等学校相撲金沢大会」

金沢市で開催された「北國新聞創刊130年記念 第107回 高等学校相撲金沢大会」。コロナ禍を経て4年ぶりに有観客で開催されることから、「人」にフューチャーしたユニークなビジュアルを公開しました。生で見る選手の身体を山に見立てた写真を使ったもので、キャッチコピーは「NO DISTANCE」です。

実際に間近で相撲を見ることの迫力や、大会に向けて鍛え上げた肉体の大きさを「壮大な山」と表現。一見するとわかりませんが、よく見ると選手たちが取り組む姿が浮かび上がり、思わず息を飲む迫力と真剣さが伝わってきます。たった1枚のビジュアルで、これほどの奥深さを伝えられプロの力に脱帽しました。

相撲選手を山に見立てた、高等学校相撲金沢大会のグラフィック

PR部門のグランプリ、ポイントは「ミーム化」

さて、ここまで日本企業の3作品をご紹介してきましたが、グローバルでのグランプリについてもご紹介しましょう。PR部門と、ラジオ&オーディオ部門でグランプリを受賞したのはこちらの作品でした。

リック・アストリーの名曲「Never Gonna Give You Up」を、歌詞をあえて一部間違ったバージョンでリック本人が歌い、説明なしにSNS上でリリースしたもので、これを聞いた人たちは「リックが間違えて歌っている!?」「自分の聞き間違い?」などと話題にし、8時間で2,000万回以上も再生されたそうです。

この取り組みは、イギリスの「スペックセイバーズ」という、補聴器などを取り扱う小売店によるもので、この企画によりイギリスでは「聴力」が国民的な話題になったそうです。

この企画は、今年あちこちで聞かれた「ミーム化」がポイント。ミーム化とは、インターネットを介してある動画や画像や言葉などが模倣を繰り返しながら広く拡散されていくことで、TikTokでバズった動画と同じものを皆が真似しあうことがその典型です。

動画メディアが身近になり、話題のものに自分もSNS上で「参加」できるという体験が、簡単にできるようになりました。1つの企画を考える際、そこまでの設計が当たり前になるかもしれませんね。

見えてきたキーワードは「多様性・共感・人」

冒頭にも述べましたが、世界中からさまざまな作品が集まるカンヌライオンズは、広告業界だけでなくPR業界にとっても、トレンドを知る上で非常に役立ちます。上記で取り上げた日本発の受賞作品を通じて見えてきたのは、「多様性」「共感(気持ちに寄り添う)」「人」の3つのトレンドだと言えます。

日本以外の受賞作品を見ても、「ユニークさ」「人」「愛」を感じる作品が多いようで、例えば、

・SDGsなどガチガチに正論を述べることの窮屈さをユーモアで打開する
・AI時代だからこそ、人ならではの身体性、エモーショナルを大切にする
・人の気持ちに寄り添う、愛を感じ合う

といった切り口が2024年のトレンドだと言えそうです。このような作品作りをすることは容易ではありませんが、その要素を取り入れた企画やマーケティング・PR施策からチャレンジしてみようと思います。

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