採用にもマーケティングの視点を:セミナー in 静岡

2018年度の正社員の有効求人倍率(1.13倍)は、05年度以降過去最高。2年連続で、求人が求職を上回りました*。人手不足で困っているという話を、経営者からよくご相談をいただきます。

そんな中、リクルートキャリアの新卒採用セミナーで、マーケティングの話をすることになりました。題して「変化する若者へのマーケティングコミュニケーション~広報は経営戦略~」。2019年7月8日浜松市、9日静岡市で、多くの企業経営者や人事担当者の方々にお会いしました。

 

変化する新卒採用のプロセス

第一部、リクルートキャリアのマネージャー吉岡究氏より、「2020年卒採用の中間報告と2021年卒採用の展望」の講演がありました。新卒採用の環境や活動進捗を、豊富なデータと現場の声をもとに解説されました。過去3年の学生および企業の変化、全国と静岡の比較もあり、かなりの情報量です。

2019年卒の新卒学生は、52.1%が第一志望群へ入社する一方、入社予定先企業への納得度は年々減少しています。企業側を見ると、2019年卒の採用数の計画に対する未充足状況は増加を続け、採用に関わる時間や人数や費用が増加するなど、課題が多々あります。

新卒大学生の就職活動は、私が大学生だった数十年前とは様変わりしています。インターネットの普及もあり、激しい情報戦です。さらに近年、「インターン」というステップが就活に加わり、大学三年生が夏休みから活動を始めます。私も今回セミナーをするにあたり、採用市場について調査を行い、企業人事部の方や就活中の大学生に話を聞きましたが、複雑なステップや増加する採用形態など、驚くことが多くありました。

 

採用もマーケティング

その後第二部として、私からマーケティングの視点を持って採用活動をするにはという話をさせていただきました。参加企業には、事前に課題を自由に書いていただきそれをまとめましたが、次のようなものでした。

人事・経営者の採用に関する課題

 

課題のすべてに答えることはできませんが、上から5つまでは、マーケティングの観点で、解決のヒントが見つかるかもしれません。でも、マーケティングについて、共通の定義で理解されているでしょうか?「皆さんの会社で、マーケティング部があるところは?」と聞くと、1割も手をあげる方はいませんでした。

そこで簡単に解説すると・・・マーケティングとは、自社の製品やサービスのコンセプトを明確にし、販売チャネルを決めて、魅力を伝え、試用を促進し、購入してもらい、継続してもらうための一連の流れです。そして、ターゲットのニーズや生活習慣・心理、比較される競合の状況を知ることが大切です。採用も、大学生に対して、自社の魅力をどう見せるか決めて、勤務地や勤務環境を設定し、有効に伝え、インターンや説明会に申し込んでもらわなければなりません。内定を出した後、会社にロイヤリティーを持って入社して継続勤務をしてもらう必要があります。それは、製品を売るマーケティングと同じ流れです。

次に、参加された企業で6人程度のグループを作り、「自社の紹介」「7P*3で分析する自社の魅力」などのワークをしました。静岡県は自動車、機械、楽器など、世界有数の会社があり、その関連会社や部品メーカーなど、売上・利益とも大きな優良企業が多々あります。世界でシェアトップの商品を持つ企業も今回参加されていましたが、B-to-B企業の場合、学生にその強みをうまく伝えられないという話が出ました。

また、よく聞くと「管理職の3割以上が女性で、育休からの復帰率も100%。とても働きやすい環境。」「本社は静岡だが、世界各地に支店がある。外国人社員も多く、海外に住まなくてもグローバルな仕事ができる」という、魅力的な話も出てきました。そのような宝は、積極的に学生に伝えていきたいものです。

ほかの方の話を聞くときには、大学生の気持ちになって、入社したいかどうか考えて意見を言い合うディスカッションは盛り上がりました。

人事担当や経営者でのグループディスカッション

変わる大学生。情報弱者はむしろ企業

マーケティングの対象となる相手を知るのは、とても大切です。大学生の職業観は、変わってきています。私もここ数年、様々な活動で大学生と触れ合う機会がありますが、彼ら・彼女たちの変化を感じることがあります。特に今の大学生は、デジタルネイティブ。2020年卒の大学4年生は、中高時代からスマホを持ち、大量のデジタル情報の中で生きています。就活でもネットをフル活用。「みん就(みんなの就職活動日記)」「ONE CAREER」など、学生のクチコミ重視の就活情報サイトでは、実際のエントリーシート(ES)を合格したもの・落ちたものと両方を見ることができます。面接で何を聞かれたか、会社から合否連絡は来ているかなど、リアルタイムで情報共有がされています。

大学生協の書店に行くと、一つの棚の表裏全部に、就活対策本が並んでいます。自己分析・SPI・ES・面接対策といった分野だけで数十種類、人気企業はそれぞれに対策本もあります。先日ある大学を訪問したところ、「今だから読みたい!」と生協職員の手書きPOPがついた、転職に関する本までありました。

ところが、大手の書店に行っても「採用をうまくするには」という本は、「経営コーナー」の棚一列の半分くらいしかありません。どうすれば〇〇大学の学生を採用できるか?というノウハウは、社内で限定的に共有されることはあっても、社外に決して共有されません。つまり、今の採用業界の中では、情報は学生の方が企業側より大量に持っており、情報弱者はむしろ企業なのです。

変わる大学生。今の大学生の生まれてから今までの時代の背景。習慣や特徴とは

 

PESOを意識した広報活動

大量生産時代は、テレビや新聞でのマス広告で製品の魅力を伝えるのが基本でした。しかし今の時代、広報の世界では、PESOモデルを意識したコミュニケーションが必要だと言われています。

Owned Media(自社ホームページやブログ・メルマガなど)という、自分で管理できる媒体で、自社の魅力をあますことなく発信することが基本です。

一方、Earned Mediaはテレビや新聞・雑誌などの記者に取材してもらって紹介されること。報道のプロの目が入ることで、客観性と信頼性が生まれます。

Social Media は、一般の人の口コミです。Facebook、Twitter、LINE、インスタグラムなどのSNSでのクチコミは、今や大きな影響力を持ちます。

Paid Mediaはお金を出して宣伝広告をすること。採用で言うと、リクナビなどを使って広告を出すことですね。ここを通じて会社を知った人も、会社のホームページを見ますし、口コミを確認します。新聞やテレビで報道されていたら、すごいなあと思うかもしれません。掲載実績があるのなら、自社ホームページや広告の中でも「〇〇新聞で社長が紹介されました」「〇〇テレビで自社サービスの特集がありました」などを、紹介すると良いでしょう。

事例として、関西広報100研究会の会員である、日本PCサービスサイボウズロックオンなどを、広報のご了承を得てご紹介しました。会社の魅力を自社ホームページでうまく表現し、メディアで掲載されるよう積極的に広報されています。

 

90分のセミナーは、参加者の方々の熱心なワークもあり、あっという間でした。

山も海も近く、自然が豊富で文化豊かな静岡。本州最後の楽園という浜松は、もちかつお(その日にとれた一度も冷凍していないカツオ)というまぐろは、絶品です。

今後、個人的に静岡の良さを広報しよう!また来よう~と思いました。

 

参考

*1:厚生労働省の2019年4月26日発表より (2018年度 有効求人倍率)

*2:就職みらい研究所「就職白書2019年」

*3:マーケティングの7Pとは、Product(製品)、Price(価格)、Place(場所)、Promotion(告知)、People(人)、Process(プロセス)、Physical Evidence(物的証拠)について強みや課題を分析すること。製造業が中心の時代は、初めの4つのPが重視されていたが、サービス業が増えた昨今は後の3Pの視点が重要となっている。

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